「イヌビワとイヌビワコバチとの共生関係」
帆柱自然公園ではイヌビワがいろんなところに生えています。そろそろ成熟した果実が食べられる頃です。イチジクは無花果と呼ばれるように、イヌビワの花も目に触れることはありません。いつ頃咲くのか、花粉交配はどうなっているのか、気になるところですが外観からは判らないのです。このような植物にはコバチ類が関係しています。
イチジクやイヌビワの果実は甘くておいしいのですが、コバチ類と植物とは一対一の共生関係にあります。「一方の破滅は他方の滅亡」につながる危険性を抱えながら、子孫繁栄を続けているのです。両者の関係が永遠に続けてこられたのには、太古からの変わらぬ自然があったからです。今後もこんなすばらしい環境を残していきたいものです。
クワ科・イチジク属は、イチジク・イヌビワ・イタビカズラ・オオイタビ・アコウ・インド ゴムノキ・インドボダイジュ・ガジュマル・などを仲間にしています。
イチジク属の多くが熱帯に分布するなかで、イチジクとイヌビワは温帯域に適応するために 「落葉」する性質を身につけ、また相棒のコバチ類の幼虫を保護するために「越冬果嚢」を備えることで共進化してきました。
このような機能は、冬季の厳しい環境に適応した特質と考えられています。
イチジク属の各種は、イチジクコバチ科に属する昆虫によってのみ花粉が運ばれ、両者の間には植物1種に昆虫1種が対応する厳密な種間関係が成立しており、共進化の最も顕著な例であると云われています。(コバチの体長は2〜3o程度)
関東地方以西に分布する落葉低木で、高さ3〜5mほど、葉は卵状楕円形で裂けない。イヌビワは雌花をつける雌株と両性花をつける両全性株があり、雌性両全性異株です。
もともと両性花の花が咲けば事足りると考えがちですが、果実と越冬果嚢の仕組みを分担することで「雌花と両性花」の絶妙のコンビネーションのもと、コバチとの共生が成り立っているのです。 (雌雄異株と呼ぶ説もあります。)
注・花の性型や交配型などの要約・・(樹木社会学より抜粋)
単性雌雄同株 雌雄異株 雄性両全性異株
雄花・雌花 雄花・雌花 雄花・両生花
虫媒花 虫媒花 虫媒花
重力散 風力散 動物散
ムベ・アケビなど ウリハダカエデなど マタタビ・ヤマモモなど
両性花の雌花は結実することができません。イヌビワの花は果嚢(イチジク様の花序)の中で咲きます。果嚢が熟すと果実の先に大きな穴が開きますが、雌株の果嚢はそのまま黒紫色に熟し食べられます。食べられない果実こそ、大事な役割を担っているのです。
(1) 両全性株(雄株)の花嚢の中での花期は、無性期→雌性期→中間期→雄性期と変動します。 花序は著しい雌性先熟性であるのが特徴。花粉製造と越冬場所の役割も担っています。
(2) イヌビワコバチの雌は有翅で、雄は無翅なのです。花粉を運ぶのは雌バチの役割です。雄バチは飛べないので一生を果嚢の中で過ごしますが、交尾の役割を担っています。
(3) 4〜6月になると「雄花期」を迎え、成虫♀は、雄花の花粉をいっぱいつけて「雌花期」を迎えた「両全性株の果嚢」に向かって飛び出していきます。
(4) 「雌花期」の果嚢にたどり着いたコバチは、中に1個の卵を生みつける。幼虫期を過ごし、蛹となり、最初に雄コバチが羽化して、雌のいる虫花で交尾する。
(5) 7〜8月頃の両性花は雄性期を迎えている。雄花の花粉まみれになって飛び出した雌コバチの向かう先は・・・
(6) 雌株の果嚢の中での花期は、無性期→雌性期→中間期→後熟期・種子散布と変動します。 両全性株と雌株の雌花期のピーク時期をずらしていることは、雌性先熟性の機能を活用した特性なのです。
(7) 雌コバチの向かう先は、若い雌性期の果嚢です。もともと両全性株の雌性期の果嚢は少ないが、雌株の雌性期の果嚢は圧倒的に多いので、果実も多くなります。
(8) 雌株果嚢に潜入したイヌビワコバチの雌は、産卵しょうとしても花柱と産卵管の長さの差違から産卵できない。しかし、体に付いた花粉の受粉のみが成立。ここで雌コバチは息絶えるが、子孫となる種子の成長がはじまるのです。
「一方の破滅は他方の滅亡」の危機的関係を築き上げたのは、どんな理由があったのでしょうか。人間社会では考えられない生存方法です。