「南の島から渡来するアサギマダラ蝶の不思議・・・?」
森林には不思議なことがらが埋もれています。植物生理や繁殖・成長の仕組み・特異な機能 ・昆虫との共生など、わからないこと、不思議なことがたくさんあります。
森の不思議も5回目ですが、不思議さの受け取りかたは人それぞれです。どっちかと言えば緑化とか森林とか温暖化などに関心がないと、「森の不思議」が湧いてこないのではないでしょうか。
さて、今回は皿倉山でも観察される「アサギマダラ蝶」に関する不思議な生活が課題です。この蝶は春には南方から北上し、秋には南方に帰っていく習性があります。
渡り鳥の話はよく聞くのですが、蝶にも渡りの習性があることを知った当初は、ただビックリするばかりでした。 本当に不思議な昆虫ですねェー。
ファーブル昆虫記(1879〜1907間に全10巻を出版)やメンデル(1822〜1884)の法則などは、少年期を思い出させる書籍のひとつです。昆虫記は今でも拾い読みするくらいです。
ファーブル先生の50数年間の細かな観察記録が役立っています。
18世紀以降生物界の研究は、リンネ(1707〜1778)の24綱分類体系・エングラー(1844〜1930)の世界の植物の研究と体系的整理、ダーウィン(1809〜1882)の進化論。
日本では平瀬作五郎によるイチョウの精子発見(1896)、牧野富太郎(1862〜1957)の植物分類など、各分野での研究成果は今に続く功績として世界的に役立っています。
ところで蝶出現の歴史は、約46億年前の地球誕生以降、蝶の食餌植物が生える時代まで遡ることになります。幼虫はキジョラン属・カモメヅル属などが食草です。
食糧となる被子植物は、中生代の白亜紀(1億4千万〜6千5百万年前)に出現したのですが、食草の進化に並行して、昼行性の蛾の一部が蝶として進化してきたと言われています。
この地球上では約180万種の生物が記録されていますが、植物が三分の一、昆虫が三分の一、動物が三分の一ぐらいとする見方があります。その中で種子植物は植物の半分以上の30万余種を占め、裸子植物は僅少で被子植物が大半を占めています。昆虫類にとっては、大量の食餌植物の中で繁栄が図られたのではないでしょうか..?
蝶と蛾は昆虫の中では鱗翅目に属し、蝶は昼間の活動を、蛾は主として夜の活動に適応してきたものと言われています。夜行性の蛾の種類は蝶の数十倍にもなります。
蝶の種類は世界に1万数千種、日本には約240種が土着しているといわれています。帆柱山系とその近辺では約70種が確認されていますが、その内の20種は帆柱自然公園愛護会のホームページに掲載しています。なお当地における蛾は約1200種の棲息数が確認されていますが、鱗翅目の昆虫はなぜ夜行性の方が多いのでしょうか、不思議です。
特に、アサギマダラについては不思議なことがらが次つぎとでてきます。
(あ) アサギマダラはなぜ南北間の渡りをするのでしょうか。春には北方に上り、秋には南に帰っていく習性は、他の蝶に見られない生活様式です。
(い) あの小さな躰のどこに方向を見定める機能があるのか。伝承鳩の帰巣性にも似た何かを持っているのでしょうか・・?
(う) 最も不思議でならないのは、旅の途中で生まれた蝶が渡りを続けることです。親蝶から何かを受け継いでいないことには行く先が定まらないと思うのですが・・?
(え) 雌蝶は幼虫の食草に卵を産みつけるのですが、必要な植物の判定ができる機能には感心させられます。親蝶の経験を伝えていく仕組みは種族の繁栄そのもののようです。
(お) 移動の習性は、モンシロチョウやイチモンジセセリチョウにもありますが、アサギマダラのように遠距離ではありません。前者が近中距離に対して、アサギマダラは種子島から福島県まての千qを越える旅が記録されています。
1960年頃までは北海道でも土着の蝶であると考えられていました。ところが、アサギマダラは常緑性キジョランが
食草であり、しかも越冬することなどから冬季に食草がない東北地方以北や高山地帯で棲息できないことが明らかになったのです。
他の蝶との生活様式の違いは研究課題となり、多くの関係者が取り組んでいるのですが、マーキング調査が始まったのは1980年からで、放蝶〜捕獲の研究成果が待たれるところです。
現時点で長距離移動の要因は何であるかを追求した研究成果は、推測の域をでないのですが、その中の関心事を何項目か取り上げてみました。
(あ) 春は北へ、秋は南に向かって渡る「定方向への移動性」が認められていますが、その移動に気流を利用する能力があるのではないかと・・・。
(い) 移動の要因に気温が関係していることは確かなようです。春や秋は低地で、夏は高地でよく見かけるのですが、真夏に南西諸島で見ることができないのも温度が関係していると思っています。
(う) 食餌植物の繁殖状況が、蝶の移動に関連しているようです。寒冷地の落葉性食草に期待することはできないので、なが居は無用で南方への移動は納得できます。
モンシロやイチモンジセセリでは次の食餌を求めて移動することが確認されています。
アサギマダラの生態について研究を続けられている先生方のご努力に期待しつつ、新しい情報が得られれることを期待しています。
【 参考文献:
蝶の生態と観察・福田晴夫・高橋真弓著・築地書館 :蝶の生活と自然・長谷川順一著・栃の葉書房 蝶ウオッチング百選・師尾 信著・晩声社 :他