朝から空は重く、灰色の帳が山を覆っていた。天気予報は数日前から、正確に雨を告げていた。


保全作業の日。だが、私たちはすでに知っていた。今回は、山には入れない。代わりに小屋での内業——鎌研ぎに切り替える旨は、前もって連絡していた。
午前九時。ヤマボウシ小屋に、部員九名が集まった。
誰もが雨を恨めしく思っていたが、口には出さない。ただ、どこかしら落ち着かない表情が互いに読み取れた。







砥石を水に浸す。沈黙の中、湿った石の感触が手に伝わる。
気が乗らぬまま刃を当てると、金属が石に擦れる音が、小屋の静けさを裂いた。



それでも、不思議なものである。
砥いでいくうちに、刃の曇りが落ち、少しずつ心も澄んでくる。
無言のまま作業に没頭すること約一時間。27本の鎌が、見違えるほど光を取り戻していた。
外の雨は止まない。
けれども、その刃の輝きに、私たちは少し救われたのかもしれない。
昼食も、言葉少なに黙々と摂った。
湿り気を含んだ空気が、小屋の中にも静かに流れていた。




作業は終わり、各々が静かに解散していった。
背を向けた山の稜線は、霧に沈んだままだった。
——雨の日には、刃を研ぐ。それもまた、山の仕事である。